IT担当者の引き継ぎでは、「何を確認すればいいか分からない」という状態が、情報漏えいや業務停止などの大きなトラブルにつながることがあります。
しかし、確認すべきポイントをあらかじめ整理しておけば、引き継ぎ漏れのリスクは大きく減らせます。
この記事では、IT担当者が交代するときに確認したい50項目を、優先度順にまとめました。
チェックリストとしてそのまま使えるので、前任者がいる場合の質問リストとしても、前任者がいない場合の確認リストとしても活用できます。
この記事で分かること
- IT担当の引き継ぎで確認すべき50項目
- 最優先で確認したい内容
- 社内・取引先ごとの確認ポイント
- 引き継ぎ漏れを防ぐコツ
IT引き継ぎで確認漏れが起こりやすい理由
IT担当の引き継ぎでは、「資料はあるのに必要な情報が載っていない」「そもそも資料が存在しない」といったケースが珍しくありません。
特に中小企業では、一人の担当者が長年IT業務を担っていることも多く、
- パスワード管理方法
- ベンダーとのやり取り
- 障害発生時の対応
- 定期作業
などが担当者の経験に依存してしまいがちです。
さらに、急な退職や異動では十分な引き継ぎ期間を確保できず、「誰に聞けばよいか分からない」という状況になることもあります。
そのため、思い出しながら確認するのではなく、チェックリストを使って機械的に確認することが最も確実な方法です。
IT引き継ぎで最優先に確認すること
すべてを一度に確認する必要はありません。
まずは、会社への影響が大きい次の4項目から確認しましょう。
管理者アカウントを確認する
管理者アカウントとは、システム設定やユーザー管理を行える最も権限の強いアカウントです。
まず確認したいのは、
- 誰が管理しているか
- どのシステムに存在するか
- 会社としてどのように管理しているか
です。
認証情報(ID・パスワード)は、会社のルールに従って管理・引き継ぎを行いましょう。
また、管理者アカウントで多要素認証(MFA)が有効になっているかも確認しておくと安心です。
パスワード管理方法を確認する
会社ではどのようにパスワードを管理しているでしょうか。
例えば、
- パスワード管理ツール
- Excel
- 紙の管理台帳
など、会社によって方法はさまざまです。
紙やExcelで管理している場合は、
- 誰が閲覧できるか
- 緊急時に確認できるか
も確認しておきましょう。
サーバー・クラウドを確認する
現在利用しているITサービスを一覧で把握します。
例えば、
- Microsoft 365
- Google Workspace
- AWS
- ファイルサーバー
- NAS
などです。
確認する内容は、
- 契約中のサービス
- 管理者
- 契約先
- 支払い方法
です。
まずは「何を契約している会社なのか」を把握することが重要です。
バックアップを確認する
バックアップは、「設定されている」だけでは十分ではありません。
確認したいのは、
- 実際に取得できているか
- 保存場所
- 保存期間
- 復元テストの実施状況
です。
「バックアップはあると思っていた」が、実際には何か月も停止していたという事例も少なくありません。

社内で確認すること
最優先項目を確認したら、社内で利用しているIT資産や運用状況を整理していきます。
ここでは、「誰が・何を・どのように利用しているか」を把握することが目的です。
PC・IT資産
確認したい内容は、
- パソコン
- スマートフォン
- タブレット
- プリンター
- 複合機
などです。
可能であれば、
- 利用者
- 設置場所
- 管理番号
まで一覧化しておくと、その後の管理がスムーズになります。
ライセンス
ライセンスは費用に直結するため、早めに確認しておきたい項目です。
確認ポイントは、
- 契約数
- 利用者数
- 更新日
- 自動更新かどうか
です。
退職者分のライセンスが残っているケースも少なくありません。
ネットワーク
ネットワークは詳細な設定を理解する必要はありません。
まず確認したいのは、
- ネットワーク機器の設置場所
- 管理している人
- 障害時の連絡先
です。
「誰へ連絡すればよいか」が分かるだけでも、トラブル時の対応速度は大きく変わります。
プリンター
プリンターや複合機はリース契約であることが多いため、
- 契約期間
- 保守会社
- 消耗品の発注方法
を確認しておきましょう。
取引先・契約関係で確認すること
社内の確認が終わったら、次は取引先や契約内容を整理します。
IT業務では、自社だけで完結しないケースが多くあります。
システム障害や機器故障が発生したときに迅速に対応できるよう、外部とのつながりも把握しておきましょう。
ベンダー
ベンダーとは、システムやIT機器を提供・保守している会社です。
例えば、
- パソコン販売会社
- ネットワーク保守会社
- 会計ソフト販売会社
- Microsoft 365販売代理店
などがあります。
確認したい内容は、
- 会社名
- 担当者
- 電話番号
- メールアドレス
- 担当システム
です。
「どのシステムを、どのベンダーが担当しているのか」を一覧にしておくと、トラブル発生時に迷わず連絡できます。
保守契約
保守契約の内容も確認しておきましょう。
確認したい内容は、
- 対応時間
- 対応範囲
- 有償対応になる条件
- 問い合わせ方法
です。
契約内容を把握しておくことで、障害発生時の判断がスムーズになります。
更新期限
契約更新日は意外と見落としやすいポイントです。
確認したい内容は、
- 契約更新日
- 自動更新かどうか
- 更新担当者
- 更新通知の有無
です。
更新日をカレンダーへ登録し、事前に通知されるよう設定しておくことをおすすめします。
IT引き継ぎチェックリスト(保存版)
ここまでの内容を、そのまま使えるチェックリストにまとめました。
前任者への質問リストとしても、自分で確認を進めるリストとしても活用できます。

| No | 分類 | 確認項目 | 優先度 | 確認結果 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 管理者アカウント | 誰が管理者アカウントを持っているか | 高 | □ |
| 2 | 管理者アカウント | どのシステムに管理者アカウントが存在するか | 高 | □ |
| 3 | 管理者アカウント | 退職者・異動者のアカウントが残っていないか | 高 | □ |
| 4 | 管理者アカウント | 管理者アカウントに多要素認証(追加の本人確認)は設定されているか | 高 | □ |
| 5 | 管理者アカウント | 管理者アカウントのパスワードが他のシステムでも使い回されていないか | 高 | □ |
| 6 | パスワード管理 | パスワードはどこで、誰が管理しているか | 高 | □ |
| 7 | パスワード管理 | 同じパスワードが複数のシステムで使い回されていないか | 高 | □ |
| 8 | パスワード管理 | パスワード管理ツールを使っているか | 中 | □ |
| 9 | パスワード管理 | パスワード変更・再設定のルールは決まっているか | 中 | □ |
| 10 | パスワード管理 | パスワードを記録したメモやファイルに誰がアクセスできるか | 中 | □ |
| 11 | サーバー・クラウド | 自社サーバーの設置場所と管理者は誰か | 中 | □ |
| 12 | サーバー・クラウド | 契約中のクラウドサービスの一覧はあるか | 高 | □ |
| 13 | サーバー・クラウド | 各サービスの管理者アカウントの所在は分かるか | 高 | □ |
| 14 | サーバー・クラウド | 無料期間から有料契約に切り替わっているサービスはないか | 中 | □ |
| 15 | サーバー・クラウド | 使われていない(休眠している)契約はないか | 低 | □ |
| 16 | サーバー・クラウド | サービスごとの請求先・支払い方法は誰が管理しているか | 中 | □ |
| 17 | バックアップ | バックアップは実際に取得されているか | 高 | □ |
| 18 | バックアップ | バックアップの保管場所と保存期間は分かるか | 中 | □ |
| 19 | バックアップ | 復元テストを行ったことはあるか | 中 | □ |
| 20 | バックアップ | バックアップの対象データ(全体か一部か)は明確か | 中 | □ |
| 21 | バックアップ | バックアップの取得頻度(毎日・毎週など)は決まっているか | 中 | □ |
| 22 | PC・IT資産 | パソコン・スマートフォンの台数と使用者の一覧はあるか | 中 | □ |
| 23 | PC・IT資産 | 貸与機器の返却ルールは決まっているか | 低 | □ |
| 24 | PC・IT資産 | 機器の購入・廃棄の手続きフローは分かるか | 低 | □ |
| 25 | PC・IT資産 | 機器にセキュリティソフトは導入されているか | 高 | □ |
| 26 | PC・IT資産 | 紛失・盗難時の対応ルールは決まっているか | 中 | □ |
| 27 | PC・IT資産 | 私物端末(BYOD)の業務利用は許可されているか | 低 | □ |
| 28 | ライセンス | ソフトウェアのライセンス数と使用数は一致しているか | 中 | □ |
| 29 | ライセンス | 使われていないライセンスが残っていないか | 低 | □ |
| 30 | ライセンス | ライセンスの契約更新方法(自動更新か手動か)は分かるか | 中 | □ |
| 31 | ライセンス | 主要ソフトウェアはサポート対象のバージョンか | 低 | □ |
| 32 | ネットワーク | ネットワーク機器の設置場所と管理者は誰か | 中 | □ |
| 33 | ネットワーク | ネットワークトラブル時の連絡先は分かるか | 中 | □ |
| 34 | ネットワーク | Wi-Fiのパスワードやアクセス範囲は把握しているか | 中 | □ |
| 35 | ネットワーク | リモートワーク時の接続方法(社外から社内システムへのアクセス方法)は整備されているか | 中 | □ |
| 36 | ネットワーク | ネットワーク構成図は存在するか | 低 | □ |
| 37 | プリンター | 複合機・プリンターのリース契約と連絡先は分かるか | 低 | □ |
| 38 | プリンター | リース契約の満了時期は分かるか | 低 | □ |
| 39 | プリンター | 用紙・トナーなど消耗品の発注方法は分かるか | 低 | □ |
| 40 | ベンダー | 主要なベンダーの連絡先(電話・メール・担当者)は分かるか | 高 | □ |
| 41 | ベンダー | どのベンダーがどのシステムを担当しているか分かるか | 中 | □ |
| 42 | ベンダー | 緊急時に対応してもらえるベンダーかどうか分かるか | 中 | □ |
| 43 | ベンダー | 過去のベンダー対応で引き継いでおくべき注意点はないか | 中 | □ |
| 44 | 保守契約 | 保守契約の対応範囲(対応時間・対応内容)は分かるか | 中 | □ |
| 45 | 保守契約 | 保守契約に含まれない、追加費用が発生する作業は何か | 中 | □ |
| 46 | 保守契約 | サポート窓口への問い合わせ方法(電話・メール・専用フォームなど)は分かるか | 中 | □ |
| 47 | 保守契約 | 海外ベンダーがある場合、対応言語や時差の問題はないか | 低 | □ |
| 48 | 更新期限 | すべての契約の更新日をカレンダーに登録したか | 高 | □ |
| 49 | 更新期限 | 更新前に通知が届く設定にしたか | 中 | □ |
| 50 | 更新期限 | 契約ごとに自動更新か手動更新かを把握しているか | 中 | □ |
チェックリストの使い方
50項目を一日で終わらせる必要はありません。
おすすめは次の順番です。
優先度「高」
まず確認する項目
- 管理者アカウント
- パスワード管理
- クラウド契約
- バックアップ
- ベンダー連絡先
- 更新期限
優先度「中」
1週間以内を目安に確認
- IT資産
- ネットワーク
- 保守契約
- ライセンス
優先度「低」
業務が落ち着いてから確認
- BYOD
- プリンター
- リース契約
- ソフトウェアバージョン
優先度を意識することで、限られた時間でも効率よく引き継ぎを進められます。
まとめ
IT担当の引き継ぎでは、「何を確認すればいいか分からない」という状態が最も危険です。
だからこそ、チェックリストを活用して、一つずつ確認を進めることが重要になります。
まずは次の3つを意識してください。
- 管理者アカウント・バックアップ・ベンダー情報など、優先度の高い項目から確認する
- 資料だけでなく、前任者やベンダーから実際の運用も確認する
- 50項目を一度に終わらせようとせず、優先順位を付けて進める
チェックリストを活用すれば、「何を確認すればいいか分からない」という不安を、具体的な行動へ変えられます。
よくある質問
Q1. 前任者が退職していて相談できません。
契約書、請求書、メール履歴などから利用中のシステムを洗い出しましょう。
分からない内容は、上司へ相談したうえでベンダーへ問い合わせる方法も有効です。
Q2. 50項目すべて確認しないといけませんか?
いいえ。
まずは優先度「高」の項目から確認してください。
管理者アカウントやバックアップ、契約情報など、会社への影響が大きい項目を優先することが重要です。
Q3. 引き継ぎ資料が残っていません。
資料がない場合は、このチェックリストを使って一つずつ確認しながら、新しい引き継ぎ資料を作成しましょう。
今回作成した資料は、次の担当者への大切な資産になります。